大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)3174号 判決
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〔判決要旨〕借地法第一〇条により買取請求をなし得る建物は、原則として借地権者が権原に基いて建築した物に限られ、その後無権原の第三者がこれに附層させた物件は、(イ)それがすでに従前の建物と一体をなしこれを分離させることが困難かつ不経済であること、(ロ)かかる物件を附属させることが本来の賃貸借契約上借地人ならばなし得た範囲の造改築に属するものでないこと、(ハ)これを買取請求させても賃貸人に対し著しい不利益を与えるものでないこと、の諸要件を具備する場合にかぎつて買取請求の対象となる。
〔事実と争点〕原告は、大阪市浪速区立葉町一、三一六番地の八宅地八一坪一八を所有し、昭和二四年頃被告永井に賃貸し、被告永井は同地のうち北部約二〇坪を原告の承諾のもとに訴外生熊に転貸し、同訴外人は同地上に木造瓦葺平家建居宅建坪一一坪九四を建築したが、昭和三二年一一月二一日被告門田にこれを売渡した。被告門田は昭和三七年四月同家屋一階をブロツク建工場とし、平家を二階建として、二階木造瓦葺一階ブロツク造・二階建居宅兼工場一棟建坪一六坪三一、二階坪一三坪七六の建物に改造した。しかるにその敷地である右約二〇坪の転貸借につき原告の承諾を得ていなかつたため、原告より被告永井との賃貸借契約を解除して右建物の収去土地明渡を訴求し、これに対し被告は右建物の買取請求をなした事案につき、裁判所は前記要旨のとおりの要件を示し、本件はこの要件を具備しないとして、右買取請求を認めなかつた。このように明確に三つの要件を示した点で新しい判例であり、かつ右三要件を具備しないものとして買取請求を認めなかつた点で数少い判例である。
〔判決理由〕借地法第一〇条により買取請求をなしうる建物は、原則として借地権者が権原に基いて建築した物に限られ、その後無権原の第三者がこれに附属させた物件は、(イ)それがすでに従前の建物と一体をなし、これを分離させることが困難かつ不経済であること、(ロ)かかる物件を附属させることが、本来の賃貸借契約上、借地人ならばなし得た範囲の造改築に属すること、(ハ)これを買取請求させても、賃貸人に対し著しい不利益を与えるものでないこと、の諸要件を具備する場合にかぎつて、買取請求の対象となるものと解される。そして、従前の建物と無権原の第三者が附属させた物件とが一体をなし、これを分離させることが社会的に不可能となつた場合で、右(ロ)、(ハ)の要件に合致しない場合には、建物全部について買取請求権がないものというほかない。
そして、証人上金、原告本人の供述によると、原告が被告永井に本件土地を賃貸したのは住居用建物所有の目的であり、また被告永井と訴外生熊との間の転貸借も、生熊の住居用建物所有の目的であつたことが認められ、生熊が適法な転借権に基いて同地上に木造瓦葺平家建物居宅建坪一一坪九四を建物したことは争がなく、被告門田がこの木造建物を二階に上げ、階下をブロツク建鉄工場とする増改築を行なつた結果、二階木造瓦葺一階ブロツク造・二階建居宅兼工場一棟建坪一六坪三一、二階坪一三坪七六となつたことは、さきに認定したとおりである。また、鑑定の結果によれば、右増改築により建物価格は約二倍になつたことが推認される。そうすると、右増改築後の建物は、生熊が権原に基いて建築した部分と、被告門田が無権原で増改築した部分とが一体をなし、これを分離できない状態となつたものであり、この増改築は、本来の賃貸借および生熊に対する転貸借の契約目的を逸脱して堅固な建物であるブロツク建工場を築造したものであり、その結果、建物の構造、用途が特殊なものになり、前記買取価格の倍増とあいまつてこれを賃貸人に買い取らせることは、賃貸人に著しい不利益を負わせる結果になるものというべきで、この建物全体につき買取請求権はないといわざるをえない。(杉山克彦)